微生物の代謝経路をシンプルかつ合理的にデザイン!
試験管内でのバイオ燃料生産に成功!酵素反応による有用化学品のオンデマンド生産に期待
リリース概要
大阪大学大学院工学研究科の本田孝祐准教授らの研究グループは、好熱性微生物の代謝酵素を組み合わせ、バイオ燃料生産に特化した人工代謝経路を試験管内で再構築することに成功しました。この方法は、種々の代謝酵素に幅広く適用可能であることから、バイオ燃料のみならず、様々な有用化学品の効率的な生産に応用できる可能性があります。
研究の背景
代謝とは、すべての生物が有する能力であり、外部から取り込んだ物質を、自分自身の体を構成する様々な分子(タンパク質や脂質など)に変換する能力のことです。細胞の中には、これらの変換反応を触媒する酵素タンパク質が数千種類も含まれ、複雑な代謝反応の担い手となっています。特に生物的多様性に富む微生物は、ユニークな代謝酵素の宝庫であり、人類は古来これらをお酒などの発酵食品の生産に利用してきました。
最近では、この発酵技術をさらに発展させ、バイオ燃料などの有用物質生産に利用しようという試みも活発です。一方、発酵技術による物質生産では、目的とする物質以外にも、微生物が生育に必要とする様々な物質が副産物として生産されてしまいます。目的物質の生産に必要な代謝酵素だけを微生物から取り出して、試験管内で「人工代謝経路」を構築することができれば、副産物を伴わない効率的な発酵生産が可能となりますが、数千種類にもおよぶ生体内の酵素の中から必要な酵素だけを選択的に取り出すには、多大な手間とコストがかかります。また目的の化学品を効率的に生産するには、複数の酵素の力価を合理的にバランスさせる必要があり、抽出酵素だけでこのバランスを達成するのは困難とされてきました。
研究グループでは、温泉などに生育する好熱性微生物(50~100℃程度の高温で生育可能な微生物)に着目し、遺伝子組換え技術を用いて、これらが有する代謝酵素を、常温でしか生育できない中温性微生物の中で生産させました。これらの組換え微生物を50~90℃程度に加熱すると、中温性微生物がもともと持っていた代謝酵素群は熱で不活化し、好熱性微生物に由来する酵素のみが活性を保った状態となります。研究グループでは、こうして作成した「熱処理組換え微生物」を組み合わせることで、有用化学品生産に特化した人工代謝経路を構築する方法の開発に取り組みました。
今回の研究では、人工経路内での代謝の流れをリアルタイムで測定する手法を開発することで、経路の構築に必要とされる酵素量を合理的に最適化することを可能にしました。この結果、本研究では、16種類の「熱処理組換え微生物」を組み合わせることで、グルコース(ブドウ糖)を原料に、次世代バイオ燃料として期待されるブタノールを試験管内で生産させることに世界で初めて成功しました。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
微生物や酵素を利用した化学変換反応は、比較的温和な条件で進みやすく、ひとつの容器内で複数の反応を同時並行的に進行できることなどから、エネルギー消費の小さな環境にやさしい化学品生産技術として注目されています。バイオ燃料生産はもちろん、プラスチック原料などの汎用化学品の生産や、精密合成が必要な医薬品などの生産にも微生物や酵素の利用技術が普及しつつあります。一方で、目的の化学品を効率的に生産するための微生物、あるいは酵素の探索と育種には多大な時間とコストがかかることがネックとされてきました。
今回の研究で開発された技術は、好熱性微生物由来の酵素であれば、幅広く適用可能なものであることから、バイオ燃料のみならず、今後、様々な化学品の生産へと応用可能な技術となりえます。持続可能社会構築のためのキーテクノロジーとして期待される「微生物機能を活用したものづくり」技術の発展にむけて、新たな道筋を示す成果だと言えます。
特記事項
本研究成果は、独立行政法人 科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業さきがけ研究領域「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」の一環として行われました。
本成果は、平成25年9月19日に米国科学雑誌「Metabolic Engineering」のオンライン速報版で公開されました。
論文名および著者名
In vitro production of n-butanol from glucose
Borimas Krutsakorn, Kohsuke Honda, Xiaoting Ye, Takashi Imagawa, Xiaoyu Bei, Kenji Okano, Hisao Ohtake
Department of Biotechnology, Graduate School of Engineering, Osaka University, JST, PRESTO
参考図
図1 試験管内での人工代謝経路構築のためのスキーム概略図
参考URL
大阪大学大学院工学研究科 生命先端工学専攻 生物化学工学領域
http://www.bio.eng.osaka-u.ac.jp/be/